日常メモランダム

日々の雑感です。

春は、嫌いだ。

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春は、嫌いだ。

暖かくなり、段々草木が萌え始める。寂しかった冬の庭から、ひとつ、またひとつと色が増えて行く。

それは素晴らしいことで、外を見渡すと心が踊る。日も長くなり、外に出る楽しみが増える。

しかし、同時に出会いと別れの季節でもある。

基本的に変化を望まない、小心者でコミュニケーションが苦手な私としては、最も苦手な季節だ。新たな出会いに胸をときめかせるより、今、手の中にあるものが溢れてしまうことが怖い。人が入れ替わると、また一から信頼関係を築く楽しさがある一方、その不安定さに心が折れそうになる。

「繊細やねぇ〜」

「うるさい」

私が突っぱねたことはどうでも良さげに、あ、ネイルうまくできた、と妹は画面の向こうで上機嫌に鼻歌を歌っていた。妹は基本的に人見知りせず、知らない人の輪の中でもあっという間に溶け込めるタイプだった。どうやら、私はその特性を母のお腹の中に忘れてきたらしい。社交性という意味では、私は人より劣り、妹は人より優れていた。

「でもさ、変わってほしいこともあるやん。ああ、あの人嫌やなぁとか、違うことしたいなぁ、とか」

変わってほしいこと。

そう聞いて、真っ先に私の頭の中に浮かんだことがあった。

 

いつからだろうか。

あれ、なんだかおかしいな、そう気がついたのは。確か、中学生くらいだったような気がする。高校生になるころには、ハッキリと自覚があった。

毎年、大体モヤモヤとした気持ちになって気がつく。あれ、これはもしや。そう思うと、途端にぼうっとしてしまう。誰に何を話しかけられても反応が鈍くなり、もうそのことしか考えられなくなるのだ。もちろん、仕事にも支障が出る。ひどい時には自分の処理速度が半分くらいになるのを感じながら、なんとか「それ」が収まるのを待ち、ひたすらやり過ごすのだ。

ずっと、私は「それ」と縁を切りたいと思っていた。できればもう2度と、その感覚に陥りたくない。私は私の「いつも通り」を繰り返したいのだ。なんてったって、変化が嫌いなのだから。

しかし、「それ」は容赦なくやってきた。大体、突然に。一度「それ」になると、しばらくの間苦しめられる。

そして、「それ」とは切っても切れない腐れ縁になってしまうのであった。

 

「ハクション!!」

「何、風邪?」

相変わらず、ネイルを塗りながら妹が聞く。

「違う、いつものやつ」

おかげで私は、マスクとティッシュと薬が手放せなくなってしまった。なんと、調べてみたら私は他の人よりもアレルギー値が高いらしく、こりゃ大変だね、と医者に言われてしまったのだった。

「あー、花粉か。毎年、っていうか一年中ずっと何かしらなってない? ゆかりは」

そう、そして私は花粉の代表であるスギ以外にも、ブタクサ、イネ系の花粉、ハウスダストと厄介なものを色々抱えているのだった。

対して妹は全く平気そうだ。どうやら、悔しいことに私は母のお腹の中からそのあたりのアレルギー反応を全て持ってきてしまったらしい。

「変わってほしいことと言えば、これを治してほしいわ」

薬も慰め程度にしか効かない私にとって、春は憂鬱な季節でしかない。

「そのうち、きっと花粉を抑えられるいい薬が出るって」

なんの根拠もなくしれっと言う妹を画面越しに睨みつけるものの、妹は涼しい顔をしている。

ああ、これだから、春は嫌いだ。

そう呟くと、私はティッシュに手を伸ばした。